産業医の杉浦です。
企業は法律に従い、(安全)衛生委員会を開かなければならないため、多くの会社では月に1回の委員会が開催されていますが、かたち上やっているだけで「あまり有効に委員会を活用できていない」というご相談をよくいただきます。
そこで今回は、これまでに様々な企業様にアドバイスしてきたことを重要と思われることから順にお伝えします。
①安全衛生委員会は何のために行うのかを年に1回、確認する
委員会の場で、「安全衛生委員会は何のために行うものですか?労働安全衛生法で目的を確認したことがありますか?」と聞くと、ほとんどの方が下を向きます 笑
第十七条 事業者は、政令で定める業種及び規模の事業場ごとに、次の事項を調査審議させ、事業者に対
し意見を述べさせるため、安全委員会を設けなければならない。
第十八条 事業者は、政令で定める規模の事業場ごとに、次の事項を調査審議させ、事業者に対し意見を
述べさせるため、衛生委員会を設けなければならない。
安全についても衛生(健康)についても、委員会の場で何かについて調査したり議論して、必要なことを事業者に伝え、改善していくために委員会があります。
ですから、報告だけの会議や議論したものの何も決まらない会議では意味がありません。
年に1回くらいは(例えば4月行うなど決めて)、安全衛生委員会の目的そしてちゃんと目的を果たせているかを委員会の場で確認することをおすすめします。
こちらの厚生労働省のリーフレットはシンプルにまとまっているので内容を確認しましょう→こちら
②PDCAを回す
安全または健康上の課題があった場合、それを解決するために行動が必要になります。
議事録には、
・誰が(担当者)
・いつまでに
・何をするか
を最低限記入し、次回の安全衛生委員会で進捗を確認するようにしましょう。
実施途中、未実施、完了などの記載も必要になります。
未実施の場合は、なぜ未実施のままなのかその理由を問いましょう。
この際、とても重要なことですが「〇〇に気をつける」という精神論のような行動計画を立てないことです。
必ず、具体的なイメージできるような行動の計画を立てましょう。
年間目標を立てるのもいいと思います。
例えば、健康診断の受診率100%とか再検査受診率〇%などです。
この際、特に重要な課題についてはKPIを設定して毎月あるいは、数か月ごとにKPIの数値を報告し、
・何がうまくいっているから数値が良いのか
・何がうまくいっていないから数値が良くないのか
も皆さんで考えるとよいと思います。
ついつい、うまくいっていない点に注目してしまいがちですが、うまくいっている事やうまくいっている要因をたくさん委員会時に出せると、会議の雰囲気がよくなります。
安全パトロール(通称:安パト)報告を管理監督者以上が行っているところもありますが、上司からよくなかった点だけでなく、よかった点を伝えてあげると現場のモチベーションが上がると思います。
③健康上の課題(問題)から委員会参加者に尋ねる
多くの企業では安全衛生(=健康)委員会という名前で会議を委員会をしていると思いますが、残念ながら健康面について話し合われている企業は多くありません。
安全面の話がでて、それで終わってしまうことが多いです。
産業医が委員会に参加していない場合は、分からないことは後で産業医に確認すればよいと思いますので、わからないから議題にしないのではなく、健康についても話し合いましょう。
話し合おうと思わない限りは、企業経営において必要な健康管理について成長することもないでしょうから、まずは話し合うことが大切だと思います。
健康について課題(長時間労働が多く疲労がたまっている労働者が多いなど)について話し合った後に、安全について話合うことをおすすめします。
④前回、事業者(社長や経営陣)に報告した内容について会社側としての意見を伝える
例えばある部署で長時間労働が多く問題になっているとします。なぜ多くなっているのかという要因分析を行い、現場の努力で改善できることもあれば、人員不足や取引先との関係など現場の努力だけでは改善が難しいこともあると思います。
その場合、①にも書きましたが安全衛生委員会で話し合われた意見を経営陣に伝え、経営陣がどう対策を考えているのかを次回の委員会で伝えるようにします。
⑤ヒヤリハットや労災事例、巡視結果、長時間労働人数(〇時間以上がXX名など)などの報告
報告に多くの時間を使うようでは、有効な安全衛生委員会とはいえません。
会社は選ばれる時代ですから、働く人の労働時間を少しでも減らす努力が求められます。(このような努力を怠っている会社に人は集まりません。)
ですから、事前に資料を配布するなどして(各自が委員会開始前に資料を読んでおく)時間を有効に活用しましょう。その中で、「これは委員会で審議した方がよい」という案件のみ、委員会で審議しましょう。
⑥委員会にいつものメンバー以外を参加してもらう
法律で会社側(役員など)と労働者側の人数比率は決まっていますが、労働者側の人数は多すぎても問題ありません。
とある会社では、毎回労働者のうちから希望者に委員会に参加してもらい、会社が労働者の安全や健康について話し合っていることを知ってもらったり、産業医との接点を作るようにしています。
産業医が実際どのような人柄なのかがわかれば、「健康相談や面談してみようかな」という気持ちになりやすくなります。(医者というだけで、苦手なイメージを持っていて相談を避ける人は多いです。)
また、会社が労働者の健康を守るためにお金を使って産業医を雇っていることを知ってもらうチャンスにもなります。
⑦年に1回は委員会参加者全員でリスクアセスメントを行う。
リスク(危険源の危険の大きさXそれが起きる可能性)をアセスメント(どのリスクを優先的に下げるか=リスクコントロール)を評価するのは思ったより時間がかかります。
そのため、毎回行うことは現実的ではなく1年に1回、職場のリスク意識を高めるためにも委員会メンバー全員で行い(あるいは職場全体で行い)、リスクコントロール、リスクマネジメントの年間計画を立てるとよいと思います。
その際のポイントが大きく二つあります。
①意見を否定することなくたくさんアイデアを出す
起きる可能性が少ないと思えるようなことでも、もしかしたらこういう事も起きるかも・・・という視点でアイデアを出すことがポイントです。
②リスクには様々な種類があることを意識してアイデアを出す
- 物理的リスク
機械や設備によるリスク: 機械の動作中に巻き込まれる、設備の不具合によるケガなど。
作業環境のリスク: 高温、低温、騒音、振動、照明の不良など。
作業姿勢や動作のリスク: 長時間の同じ姿勢、繰り返し動作による筋骨格系障害など。 - 化学的リスク
有害物質の取り扱い: 化学薬品、粉塵、ガスなどによる中毒や火災のリスク。
発がん性物質: 特定の化学物質への長期曝露が発がんの原因となるリスク。 - 生物学的リスク
病原体: ウイルス、細菌、カビなどに接触することによる感染症リスク。
アレルギー物質: 特定の生物に対するアレルギー反応を引き起こすリスク。 - 心理的・社会的リスク
ストレス: 過度な労働時間、パワハラ、対人関係のトラブルなどによるメンタルヘルスへの影響。
職場環境の悪化: 過度なプレッシャー、目標の過度な設定、孤立感など。 - エルゴノミクス的リスク(人間工学的リスク)
不適切な作業空間設計: 不適切な机や椅子の配置による姿勢の悪化、疲労など。
作業負荷: 繰り返し動作や重量物の持ち運びによる体への負担。
オフィス業務の場合、電源に埃が溜まっている→火事の危険性、電源コードに引っかかりそう→転倒の危険性などが危険源として出やすいですが、椅子と机の高さが合っていないと腰痛のリスクが発生します、また人がいる以上、感染のリスクは常にありますし、また人間関係でストレスがたまるというリスクもあります。
安全だけでなく、健康の視点でもリスクがでてきてその対策も年間計画に入れて立てられるようになると、かなり安全衛生委員会のレベルが高くなります。
以上。
参考にしていただければ幸いです。
産業医 杉浦
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