アルコール依存症の予防と治療
DSM-5では、物質関連症候群に分類される。
厚労省研究班(2013年)の統計によれば
・1日純アルコール40g(心身に障害が起き始める)を摂取している人は1000万人以上
(ビールはアルコール0.5%、比重0.8g/miから計算すると1000cc)
・予備軍(audit15点以上)は294万人
・依存症(ICD-10診断基準)は109万人
・治療に繋がっている人は4~5万人
八事アルコール医療センターでは、1年後の断酒率は40%
血中アルコール濃度によって、リラックス→脱抑制→運動機能障害→意識混濁
男性うつ病患者での自殺既遂による死亡予測の要因として「月10日以上の飲酒」がある
依存症の自己治療仮説
依存症患者が薬物やアルコールを使用する理由の一つとして、自分自身の精神的または感情的な苦痛を和らげるためにこれらの物質を使用するという考え
精神的な苦痛の軽減:個人が精神的な苦痛や不安、抑うつなどを感じている場合、その苦痛を和らげるために薬物やアルコールを使用することがあります。
感情の調整:薬物やアルコールが、感情をコントロールする手段として使用されることがあります。例えば、アルコールはリラックス効果があるため、不安を感じている人が飲酒することがあります。
心理的な要因:依存症の背景には、トラウマ、ストレス、自己肯定感の低さなど、さまざまな心理的要因が関与していることがあります。これらの要因が、自己治療行動を引き起こす可能性があります。
薬物の選択:自己治療仮説では、個人が経験している特定の症状に対応するために、特定の薬物を選ぶことが示唆されています。例えば、不安を感じている人は鎮静剤を使用し、抑うつを感じている人は興奮剤を使用することがあるとされています。
不安や自己肯定感の低さといった制御不能な苦痛を、アルコールの量や質で制御可能な苦痛へと変換する行為をするという考え。
治療ギャップ:治療が必要な人のうち治療を受けていない人の割合。
大うつ病で45%、アルコール使用障がいの場合、92%→1割の人しか治療を受けていない
アルコール依存症の人には治療を求めない人がいる。治療を求めない人の約半数は飲酒の継続を望んでいると言われている。→アルコール依存症の人は、病気であると認めたくないし、たとえ病気であるとしても治したくない。
断酒する気になってから治療がはじまるというのは過去の考え方で、今は節酒による対話ができるようになった。
治療への壁
・専門機関が遠方で受診意欲が低下
・精神科に対する偏見
・情報不足や文化:危機的な飲酒習慣があるのに日常化してしまっている、他には祭事などで飲む文化
治療への壁2
・気分の高揚や解放感、不安の緩和や不眠の解消などのメリットがある。→集団での居場所や安心感の経験が少なかったり、生活や生育歴(いじめ、発達の障がいなど)も関係→無条件に安心や安全を与えられた実体験が少ない
→小さな成功体験の積み重ねで飲まない時間を増やしていくことが大切
アルコールとうつ病
アルコール使用障がい(依存症と乱用の総称)はうつ病と並ぶ自殺の重要なリスクであり、自殺のリスクを60倍以上に高める。
多くの国でアルコール消費量と男性の自殺率には正の相関がある。
自殺者の21%に死亡する1年前にアルコール関連問題が認められているが、飲酒の問題と認識されていないことが多い。
ハームリダクション
軽度の依存症で明確な合併症を有しないケースでは、飲酒量低減も目標になりうる。
物質使用量を減らすことがなくとも、その使用による健康・社会・経済上の悪影響を減少させる
ただちに停止するのではなく、被害を最小限にとどめるアプローチ
薬物を減らさずに、孤立、痛みや苦しみ、自殺、ハイリスク行動などを減らす
実践的にはたとえば、断酒が困難であるならばまずはセルフ・モニタリング(今日はどれくらい飲んだか)、当面の目標をトリガーの自覚に置く(何かトリガーがあって飲んだ?)
無理にやめさせようとするのではなく、信頼関係が大事。これが回復には欠かせない。
疾患と捉えられず、医師が弱い、快楽主義、などと思われ基本的人権を傷つけられることが頻繁に起きる。
→さらに健康を害し、希望を失い、孤独を深め無力感になる。→必要な治療につながらなくなる。
アルコールと死亡率
20g減らすだけで20%くらい減少する
依存性のある眠剤
ベンゾジアゾピン系:ハルシオン、デパス、マイスリー、レンドルミン、ソラナックスなど
ベンゾジアゾピン系薬剤が処方されていると、そうでない患者よりも過量服薬をする頻度が高い→致死量服薬の危険