日本の組織が抱えている課題とこれまでにとられていた解決策とその結果、そして真に有効な解決策をとって成果を出している企業は何をしているのかを考えてみたいと思います。
日本の人事・組織戦略上の課題
リクルートマネジメントソリューションズの調査によると、多くの組織が(回答の半数近くが従業員規模50~199名)
・次世代リーダーが育たない
・採用難、定着難(離職)
・リーダー以外の人材育成(能力を引き出せていないなど)
といった組織課題を感じていることがわかります。

出典元:成長企業における人材・組織マネジメントに関する実態調査
転職・離職理由
転職理由についてのリクルートマネジメントソリューションズの調査によると、
転職活動を経験した社員を対象とした比較調査において、一般社員が転職を考えたきっかけは「給与の低さ」(54.7%)が最多であるのに対し、ハイパフォーマー社員は「成長やキャリアアップの機会が限られていた」(41.3%)が最多となっています。
日本人労働者の自己投資意欲・成長意識

勤務先以外の場での自己研鑽意欲については、日本は「とくに何も行っていない」が52.6%と調査対象国のうち最下位となっています。
出典元:パーソル総合研究所 グローバル就業実態・成長意識調査(2022年)

自身が今後習得したい・高めたいスキルについて、**日本は「スキルを習得したいとは思わない」と答えた人が29.3%(約3割)**に達し、米国(3.7%)を大きく上回りました。
出典元:Indeed Japan株式会社 労働者のスキルに関する日米調査
管理職になりたい人の割合(国際比較)

出典元:パーソル総合研究所 グローバル就業実態・成長意識調査
これらの組織課題の解決策やその効果は?
これらの課題に対して
・1on1
・サーベイ(アンケートなどの調査をもとに改善につなげる)
・マネジメント力向上研修
・評価者研修
・新たな制度の導入(テレワーク、フレックスタイムなど、ワークとライフの両立を狙ったものなど)
・リスキリング
・インセンティブ
などの対策が取られていますが、

出典元:経産省 持続的な企業価値の向上と人的資本に関する研究会 報告書 ~ 人材版伊藤レポート ~
施策の中心となる人事部門の人たちの意見としては、人事戦略が経営戦略に紐づいていない(連動していない、接続していない、乖離している、分断している)というみかたをしているようです。
また、
・研修のやりっぱなし(研修転移の失敗)
・組織構造・人間関係の課題を無視した単発の研修や制度
・中間管理職の役割過多
*課長の8割〜9割がプレイングマネジャー化していると言われています
・人的投資に対する「短期的なROI」の追求
*現場の環境整備や定着のためには年単位の時間がかかる事があると言われています
このような理由から、人事戦略がうまくいっていない現状があります。
生産性を高め採用でも成果を出している組織が行っていることとは?
ここまで書いていて自分でも暗くなってきたのですが、これまでの御社の取り組み方のプロセスについて振り返ってみてはいかがでしょうか?
経営陣または人事が感じる組織課題(組織の現状を把握するためのデータをもとに)の抽出
→人事が施策を実施する。
このようなプロセスで進めていないでしょうか?
なぜ、このようなプロセスで進められるのでしょうか?
そこにはどのような考え方や構造があるから、このようなプロセスで進められているのでしょうか?
それでずっとうまくいっていない現状があるのに、なぜ同じような事を繰り返しているのでしょうか?
ひとつには、日本の終身雇用制度が影響していると言われています。
欧米のようなジョブ型雇用と違い、日本では終身雇用制度が崩壊していると言われながらも、60%以上の方がその考え方がまだ残っていると感じているそうです。
自身が提供できる価値がそのまま雇用継続や報酬に繋がるジョブ型雇用と違い、終身雇用制度では自らのキャリアを設計していく意識が醸成されにくいと言われています。

まず、このような文化的背景があることを前提に考える必要があるように感じています。
ですから、キャリア思考が低い日本人に対してリスキリングや研修、人事施策を行っても、キャリアやスキルアップへの意識、そもそものモチベーションが低いのですから学習の定着率が低くなる可能性があります。
また、先ほど経営戦略と人事戦略が紐づいていないというデータを示しましたが、
現場が感じている課題感と経営戦略・人事戦略が紐づいていない可能性も十分にあります。

出典元:パーソル総合研究所 グローバル就業実態・成長意識調査
日本は権威主義・責任回避型であり、調査対象となった人の84.4%が、自分の会社にはとりあえず上層部の決定には従う文化があると答えています。その結果、主体性が育まれにくくとりあえず言われたことをやっておこう、という考え方になってしまっているのです。
ここで、うまくいっている組織を見てみると、
経営層や人事からの指示、施策に対して動かすのではなく、現場が感じている課題を現場主体で解決するアプローチをとっています。
長々と人事・組織課題とこれまでに実施されてきた解決策やその問題点を書いてきましたが、うまくいっていないのであれば今までの延長線(これまでの日本的慣習にのっとった施策)ではなく、全く違うアプローチをすればよいと思います。
私が知る限りでは、結果(生産性向上、残業削減、エンゲージメント向上、採用率アップなど)は、トップダウンで制度を作るだけという施策は行っておりません。
100社あれば100通りのアプローチがありますが、成果を出しているところが行っている要素を抽出すると以下の〇ポイントになります。
結果を出している組織が行っている取り組みのポイント
①経営層による方向性の提示
10年先、20年先に日本がどのようになっていくと予測しているのか、そして業界はどうなっていくのかを見据えて、会社が目指すべき方向性やありたい姿を経営者の実感のこもった言葉で何度も伝える。
「真に有効な働き方改革」に取り組み、残業削減だけでなく、生産性の向上や採用率アップといった結果を出している会社は、ノー残業デーや有給を取得するようにと声かけするだけでは結果に結びつかないことに気づいていると思います。
「働き方改革」は改革と名前がついている通り、人事施策や福利厚生の充実をするだけの事を言いません。当然改革ですから反発もあるでしょうし、経営者自身がこれまで目を背けてきたあるいは本当は重要だとわかっているけれど、目の前の課題解決に時間を奪われて取り組めていなかった課題い着手する必要があります。
そして、方向性を伝えたら現場主体で改革を進めていきます。
②現場主体の働き方改革
現場主体で解決をしていく事をお伝えすると、「そんな事をしたら現場が好き放題に意見を言うかもしれないのではないか!」とまず言われます。
しかし、現場に任せない限り(決して放任ではありません)、スピード感が早く複雑な現代においては間に合わないですし、経営層や管理職だけではマンパワーが足りないと思います。
これは、国の政策の方向性にも現れています。
例えば、健康経営はこれまで国が健康診断や産業医による結果の確認や事後措置、健診項目などを法律で決めても、次々と新たな問題が起こり、また国のリソースだけでは限界があるため、社員の健康管理を現場(各会社)に任せ、自律的に行って欲しいという国に意思の現れでもあります。
化学物質の自律管理も同様です。
これまでは化学物質に対して法律で取り締まってきましたが、次から次へと製造される化学物質を国が管理することには限界があるため、現場(各会社)に任せるようになりました。
自然災害についても同様です。
これまでは国が治水対策などをしてくれると考えていましたが、今では現場(地域住民や地域の行政)にもその役割を任せる方向にシフトしています。
100地域あれば100通りの治水対策、災害対策があり、国はある程度の方向性(科学的データなどを示すなど)を示してはいますが、対策は現場にも任せる協働の考え方にうつっています。
*流域治水という考え方です。
つまり、「政府によるインフラ整備だけが災害対策であるという固定観念を捨ててください!企業や地方行政、住民も対策の責任を担う側へ加わってください!」という考え方にシフトしています。
つまり、
・複雑に要因が絡み合う
・変化のスピードが早い
場合には、国や経営層が時間をかけて対策を考えるのではなく、一番現場を分かっている人たちと協働する必要があるということです。
実際は現場主体で会議をしていくことになりますが、「何から始めてよいかわからない」「会議の進め方がわからない」などの場合はご相談ください。
③小さくPDCAを回す
できる限り信頼できるデータを提示したいと思っております。
ただしデータは現状の課題認識や解決の方向性を考えるためには役立つけれど、人に関わる問題は単純な因果関係を見ただけではよい解決につながらないことが多いため(「このようなデータがあるから、この対策をしよう」という表面的問題だけを見た対策は根本原因を解決できないことが多い)、データは解決の意思をかためるためのきっかけにしかならないと思います。
そして時間をかけて計画を立てるよりも、小さく行動して小さくPDCAを回していくことが必要です。
特に社会の多くの現象が複雑適応系になっている現代においては。
複雑適応系(CAS:Complex Adaptive Systems)とは
一言でいうと、「個々の要素が、全体の全体像を誰もコントロールしていないにもかかわらず、お互いに影響し合いながら学習し、環境に適応して変化していく、生き物のようなシステム」のことです。
経済や企業組織、交通網、生態系、インターネット、そして人間社会そのものが、この複雑適応系の典型例です。
具体例を示します。

指示待ち化、優秀な若手の離職、人手不足でさらに負荷増大・・・と聞くと恐ろしくなるかもしれませんが、複雑適応系ではよくも悪くも、このような悪循環でバランスをとっています。
人手不足に対して「人を増やそう」と考えるかもしれませんが、このループを見れば単純に人を増やしたところで問題の解決にはつながらないことがわかると思います。
ではどうするのかというと、いくつか原因があるわけですから、そのうちのひとつを改善することで、よい循環が起きるかどうか確認してみればよいのです。これが小さくPDCAを回していくということです。
いくつかの原因のうち、レバレッジポイントはあるのですが、どれがレバレッジポイントかがわからないうちは、小さくテストするしかありません。
未来は明るい
複雑適応系や小さくPDCAを回しながらレバレッジポイントを探すしかないとお伝えしましたが、難しそうと感じられたかもしれません。
しかし、多くの企業が(そしてコンサルタント会社の半分以上は)問題の表面のみを見て対策をたて行動しています。
だからこそ、最初は難しく感じるかもしれませんが、問題の表面だけでなく複雑に絡み合う構造を読み解き解決策を考えられるようになるようになれば、それだけで差別化になりますし、このような構造を読み解くことができる社員を増やすことで、本質的な課題解決ができる組織へと変わっていくことが期待できます。
まだまだこのような取組みをしているところが少ないからこそチャンスであり、未来は明るい
そう捉えることができる経営者の方と一緒に仕事ができれば嬉しく思います。



