2040年までに企業が人材戦略で後れをとった場合の損失の試算

労働力損失シュミレーターの目的

労働力シュミレーターの目的は正確な数値を出すことではなく、今後の労働力低下社会構造の変化働き方の変化に対して長期的な視点を持ちながら対策をしなかった場合の損失について、危機感を感じ、考えるきっかけを作ることです。

そのため、数値についてはシンプルに算出しております。
これをきっかけに、今後の日本の状況について考え、長期的な視点に立った真に有効な対策を講じていただければ幸いです。

労働力損失シュミレーターを活用したい場合は、こちらのページをご確認ください。

今後14年の損失労働力について考える

2030年~2040年は、3つの世代別リスクが同時多発すると考えた方がよさそうです。
シニアの離脱により、基幹層(第一線の管理職に業務がさらに集中)へと負の影響を与え、そのような状況を見た若年層が「この会社に残り続けていてよいのか?」と不安になり、超売り手優位の世の中では簡単に他社へ流出してしまいます。

このような負の連鎖に対して、対症療法的な労働力補填策(女性やシニアによる単なる数合わせ)では対応できないだろうと言われています。

育児・共働き世代の流出

テレワークの不採用、硬直的な固定労働時間制、あるいは私生活との両立に対する不寛容さといった「柔軟性の欠如」を放置する企業からの若手・中堅層の流出率は、将来的に20〜30%規模に達すると予測されています。

「ワークライフバランスなんてゆとり世代の甘い考え方」だと言う方が未だにいらっしゃいますが、ライフを充実させることで仕事への集中力が高まるシナジー効果を期待するのが、本来のワークライフバランスの考え方です。
この考え方をもたないままに、若年層が求めるワークライフバランスのある働き方・柔軟性のある働き方に着手しないままでいると、十数年後には若年層が次々と離職していってしまう可能性があります。

【参考】

出典元:厚生労働省 令和7年版労働経済の分析P148)-労働力供給制約の下での持続的な経済成長に向けて-

出典元:同P152コラムより

同記事では、
「一人当たり名目GDPが高い国ほど、仕事中心性が低くなる傾向が確認された(コラム第2-(1)-1図(2))。
このことから、我が国において仕事よりも余暇を重視する傾向が以前よりも強くなっていることは、我が国特有の傾向ではなく経済成長による経済の成熟化が進んだ結果であると考えられる。」

決してゆとり世代がワークライフバランスを重視しているというわけではなく、経済の成熟化によるという見方をしている。

50代のビジネスケアラー化

2040年は、団塊ジュニア世代(ピラミッドで最も人数の多い50〜54歳層)が65歳〜70代後半に差し掛かり、その上の世代の要介護化や、自身・配偶者の介護問題が一気に表面化します。

柔軟な時間短縮勤務、リモートワーク、介護休業制度の活用などが認められない場合、仕事と家庭での介護の両立が物理的に不可能となり、中堅・管理職層を中心とした「介護離職」が大量発生すると言われています。

企業に対するアンケートでは、介護と仕事との両立について取り組んでいると答えている企業が多いものの、実際は法的な対応をしているだけ、制度を作っただけで実際には「そのような制度があることを知らなかった」「制度があるのは知っているが利用しずらい雰囲気がある」という声も多く聞かれています。

実際、介護と仕事を両立することになった方のうち、半数近くが半年以内に離職している現実があります。

出典元:厚生労働省 令和3年度仕事と介護の両立等に関する実態把握のための調査研究事業(概要P38

出典元:経済産業省 仕事と介護の​両立支援に関する経営者向けガイドライン(P19)

 企業において、介護の両立支援につき企業経営上の優先順位を高め、積極的に取り組む動きが出てきづらい背景には、構造的な課題が存在すると言える。
 すなわち、仕事と介護の両立について企業経営上の優先順位が低いままであれば、より積極的な両立支援施策を打つという判断が困難になるため、情報発信や個別相談をはじめとした施策を取り組みづらくなる。こうした状況は、社全体で両立支援に関するリテラシーが向上しにくい環境を生み、介護に直面している従業員からすると、周囲の理解が得られないのではないかという懸念から介護の状況開示を控える行動をとるようになってしまう。
 結果的に、企業内で仕事と介護の両立に取り組んでいる従業員の数や動向が正確に把握できず、社全体への影響が可視化されないまま、企業内部で徐々に生産性の低下が生じてしまう、いわゆる、負のサイクルに陥る可能性が高い。
 こうした状況を踏まえると、各施策に先んじて経営層が仕事と介護の両立に対してコミットメントを行い、この負のサイクルを断ち切ることが極めて重要となる。また、従業員やその両親の年齢が把握できれば、従業員への介護発生可能性は一定程度推測できる(従業員であれば45歳以上における発生確率が高くなる傾向になる等)ことから、仕事と介護の両立は、リスクコントロールに際して予見性が持てる事項であり、かつ、対策を講じることによるリターンも大きいと言える。

このような構造(ループ)の考え方をシステム思考と言いますが、構造のどこにアプローチをすればレバレッジが効くかについては、100社あれば100通りのアプローチ方法がありますので、社内でじっくりと(社員を巻き込んで)検討する必要があると思います。

注意点としては、介護と仕事の両立のための制度を導入しているとしても、それが実際に利用されていないのであれば、それは積極的な取組とはいえず、負のサイクルを回ってしまう可能性があります。
(株式会社東京商工リサーチのデータもご確認ください Q7) 
会社規模が大きい大企業ほど、取組が浸透するまでに時間がかかりますし、サイクル(システム)が上手く回っているかどうか確認するための調査には膨大な時間がかかってしまいます。

逆に中小企業は取組みの成果が出やすいため、中小企業ほど積極的に取り組んでいただきたいと思っています。
ガイドラインはあくまでもガイドラインであり、自社にとってのグッドサイクルが回るための勝ちパターンを見つけることが必要です。

60代(シニア層)の早期引退

健康状態や体力を考慮した再雇用制度、短時間勤務、これまでの経験を生かせる業務配置などが用意されていない場合、意欲のあるシニア人材が「身体的にも制度的にも働き続けられない」として離職・引退してしまいます。
医学の専門家である産業医にも相談しながら、シニア人材の活用についても対策が必要です。

育児・共働き世代の流出、50代のビジネスケアラー化、シニア層の早期引退と日本社会が抱える構造的な問題について考えてきましたが、このような問題を経営陣だけで考えることには限界があると思います。
単発の施策・対策ではなく、・日本社会の構造的な課題、・社内の構造的な課題について社員と課題感を共有し、社員とともに対策をしていく必要があると思います。

これらは単発の施策・対策で解決する課題ではなく、これまでと違う価値観や文化を醸成していくためには、数年かかると言われています。
実際に問題が起きてからでは手遅れになる可能性があり、早急に取組むべき課題であると考えます。

労働力損失シュミレーターの数字の根拠について

ここからは、シミュレーターで使っている「育児・共働き世代25%」「ビジネスケアラー世代15%」「定年・再雇用世代45%」という数字が、どの統計データから、どういう計算で出てきたのかを具体的に説明します。結論を先に言うと、これらの数値は公的統計・調査から算出した「推計値」です。企業や業種によって実際の離職動向は異なりますので、あくまで議論のたたき台としてご利用ください。

計算の考え方(全体共通)──「5年あたり◯%」は何年後の数字?

各ライフステージについて、「その年代に5年間とどまったら、何%の人が離職すると想定するか」という5年あたりの離職リスク率を、統計・調査データから推計しました。

ここで、誤解しやすいポイントをはっきりさせておきます。

「5年あたり15%」は、「2040年までに15%減る」という意味ではありません。
あくまで「5年間その年代にとどまったときの前提値」であり、シミュレーターはこれを5年ごとに何度も繰り返し適用します。

たとえるなら「5年ごとの更新テスト」

その年代に入ってから5年経つごとに、「100人のうち◯人がこの理由で会社を去る」というテストが行われる、というイメージです。5年より短い期間で別の年代(例えば60歳)に移った場合は、そこで別のリスク率に切り替わります。逆に、5年より長くその年代にとどまる場合は、このテストを何度も受けることになるため、最終的な減り方は元の「5年あたり◯%」より大きくなります。

具体例:40歳の社員が2040年(14年後)まで残るとしたら

「ビジネスケアラー世代=5年あたり15%」を例に、40歳の社員100人が対策なしで14年間過ごした場合の残存人数を計算すると、次のようになります(60歳の定年にはまだ達していない前提)。

  • スタート(0年):100人
  • 5年後:約85人(15%減)
  • 10年後:約72人
  • 14年後(2040年):約63人(約37%減)

5年あたりの前提値は15%ですが、14年間ずっとこのリスクを受け続けると、実際の損失は15%ではなく約37%まで積み上がります。「5年あたり◯%」はあくまで計算の材料(部品)であり、最終的な答え(何年後に何%減るか)は、予測する年数によって変わる、という点をご理解ください。

(数式で見ると:シミュレーター内部では「5年あたりの率」を年率に変換し、対象の年齢に到達してから1年ごとに複利で適用しています。年率 = 1 − (1 − 5年あたりの離職リスク率)^(1/5)。14年間残った場合の残存率 = (1 − 5年あたりの離職リスク率)^(14÷5)。「5年あたり15%」の場合、年率は約3.2%、14年間では(1−0.15)^(14/5)≈63.4%が残る=約36.6%が損失、という計算です。)

① 育児・共働き世代(20〜39歳)── 5年あたり 25%

根拠データ:国立社会保障・人口問題研究所「第16回出生動向基本調査(結婚と出産に関する全国調査)」(2021年発表)によると、2015〜2019年に第1子を出産した夫婦のうち、妻の就業継続率は69.5%でした。この継続率は調査開始以来もっとも高い水準ですが、裏を返すと約3割(100%−69.5%=30.5%)は第1子出産を機に離職していることになります。

計算の考え方:第1子出産は主に20代後半〜30代に集中して発生する一度限りのライフイベントです。このツールでは、20〜39歳という20年間の枠の中でこのイベントが一度発生するとみなし、「5年あたり」の値としては実際の離職率(30.5%)よりやや低めの25%を採用しました(20年間のうち特定の5年間だけに全リスクが集中するわけではないため、多少の安全マージンを取って保守的に設定しています)。

出典:国立社会保障・人口問題研究所「第16回出生動向基本調査 結果の概要」
https://www.ipss.go.jp/ps-doukou/j/doukou16/JNFS16gaiyo.pdf

② ビジネスケアラー世代(40〜59歳)── 5年あたり 15%

根拠データ:厚生労働省「令和4年就業構造基本調査」によると、介護をしている人は全国で約629万人、そのうち仕事を持つ人(有業者)は約365万人です。そして、直近1年間で介護・看護を理由に離職した人は約11万人でした。介護をしている有業者に占める年間離職率は、11万人÷365万人≈3.0%(年率)となります。

また、厚生労働省「雇用動向調査」でも、介護・看護を理由とした離職者数は2024年に約9.3万人(男性3.4万人、女性5.9万人)で、2000年(3.8万人)の2.4倍以上に増加しています。男性は45〜49歳、女性は55〜59歳で最も多いという結果も 出ており、まさに「ビジネスケアラー世代」に該当する年代です。

計算の考え方:上で計算した「年率3.0%」を、シミュレーターで使う「5年あたり」の前提値に変換します。ここでは複利ではなく、単純に5倍する簡易的な方法を使いました(年率3.0%×5年=5年あたり15.0%)。なお、この3.0%は「現在介護をしている有業者」に限った離職率であり、40〜59歳の従業員全員が同時に介護をしているわけではありません。ただし、企業側は「誰が今後介護に関わるか」を事前に把握できないため、この年代全体に等しく及ぶリスクとして保守的に設定しています。

出典:厚生労働省「令和4年就業構造基本調査」介護に関する統計表
https://www.e-stat.go.jp/stat-search/files?toukei=00200532
厚生労働省「雇用動向調査」
https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/koyou/doukou/25-2/index.html

③ 定年・再雇用世代(60歳〜)── 5年あたり 45%

根拠データ:厚生労働省「高年齢者雇用状況等報告」によると、60歳定年を迎えた人のうち、86.8%が継続雇用(再雇用)され、13.0%は継続雇用を希望せずそのまま離職、0.2%は継続雇用を希望したが実現しませんでした。つまり60歳の定年到達というタイミングだけでも、約13%が離職しています。さらに、2025年4月から希望者全員の65歳までの雇用確保が全企業で義務化された一方、70歳までの就業確保措置を実施している企業は2024年時点でまだ31.9%にとどまっています(労働政策研究・研修機構調べ)。

計算の考え方:60歳時点の離職(13.0%)だけでは、現場で感じられる高齢層の離職・戦力低下の大きさを十分に説明できません。そこで、再雇用後の賃金・処遇低下によるモチベーション低下や、65〜70歳での契約非継続リスクの高さを保守的に加味し、5年あたり45%という高めの数値を採用しました。正直にお伝えすると、この45%は①②に比べて直接的な統計値ではなく、複数の統計・調査を踏まえた実務的な推計です。自社の再雇用継続率が分かる場合は、その数値に置き換えることをお勧めします。

出典:厚生労働省「高年齢者雇用状況等報告」https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_46971.html/労働政策研究・研修機構「70歳までの就業確保措置を実施済みの企業が3割を超える」https://www.jil.go.jp/kokunai/blt/backnumber/2025/03/kokunai_02.html

補足:採用・育成コストの目安(300万円/人)について

シミュレーターでは「離職者を仮に補充するとした場合の採用・育成コスト」の目安として、初期値300万円/人を設定しています。マイナビ「中途採用状況調査2025年版(2024年実績)」によると、中途採用1人あたりの平均コストは134.6万円ですが、採用手法別に見ると人材紹介サービス経由では平均372.1万円まで上がります。中核人材の代替は人材紹介やダイレクトリクルーティングに頼ることが多いため、300万円はその中間〜やや高めの水準として設定しています。自社の実際の採用コストが分かる場合は、その数値に置き換えてご利用ください。

「対策を先送りするとどうなるか」を数字にする作業は、どうしても一定の推計・仮定を含みます。大切なのは、この数値自体を鵜呑みにすることではなく、「自社の年齢構成に当てはめたら、どれくらいのインパクトになりうるか」を一度可視化してみることだと考えています。ぜひシミュレーターで自社のデータを試してみてください。